No Rose without a Thorn

02.The all are Loves


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* Kouki *
 幾年も焦がれてやまなかった少女が、腕の中で眠っている。
 全てを晒して、なにもかもを委ねて、安心しきった表情で。

 俺を想っているわけじゃない。
 だけど、嬉しかった。

 知り合った頃は、どこかで、欲しいと思う心を抑えていた。
 俺のことを想っていない彼女を知っていたけれど、求められたかった。
 俺を見て、俺が必要だと言って欲しかった。
 欲しいと言わせるために、彼女から求めてくるように仕向けて。
 言わせる自信はあったし、実際、言ってくれもした。
 だけど、いつしか、それでは足りなくなって。
 彼女から求めて欲しい。応えるだけではなくて。
 俺を見て欲しい。そして、いつか、俺だけを……。
 そう願っていた。

 なんて我侭な願い。
 身体だけでも欲しくて、騙し半分に抱いたくせに、今は心を求めるのか。

 どんなに綺麗ごとを並べても、所詮は獣の潜む男の身。
 届かないから支配欲が、叶わないから征服欲が頭をもたげる。
 錯覚でも構わないから満たされたいだけ。
 彼女が俺だけのものだと思いたいだけ。
 ただ刹那の悦びのためだけ。
 それだけ。

 分析してしまえば簡単な論理。

 ――だけど、この恋心も欲望も、どちらも自分の本心だった。

 いつまでも届かない存在でいて欲しいと思う一方で、とてつもなく汚したくなる。
 せめぎ合う相反する心。
 その全てが、恋だった。

 彼女は、この世界でたったひとり、俺に恋を教えてくれた女性。
 今更に知る。俺はあの瞬間、文字通り心を奪われたのだということを。
 それは他のどんな手段よりも甘美で残酷な方法――。

 だけど今は、あの頃とは違う。
 出逢った頃とも違う。
 今は、受け容れるだけでなく、応えてくれる。
 自分から求めてくれることさえある。

 俺は、知らなかった。
 何もかも。

 恋の喜びも、
 身を裂かれるような、その切なささえも……。

 * * * * *

 甘い甘い、一夜の後。

 結局タイムリミットがきて、俺が風澄を抱き上げて、ほとんどの支度を済ませた。
 俺の腕にもたれていないと立てなくて、寄りかかる風澄の重さが嬉しくて。
 ごめんねと聞こえた呟きに、額へキスを返した。

 自分で自分の甘さに驚く。
 かいがいしく服を調えたり、腕を貸したり、そんなことに幸せを感じていたりする自分。インディペンデントで、なにもかも自分ひとりの力でやろうとする風澄が、俺だけを頼ってくれる優越感。なのに頼り切ることはない。そんなところまで、惹かれていく。

 愛してるとか好きだとか、そんな言葉は口には出せないけれど、隣に在ること、触れ合うことは許されている。

 こういう関係を何と呼んだらいいのか、知らない。
 俺たちは恋人同士ではなかったけれど、
 間違いなく、お互いに欠かすことのできない大切な存在だった。
Line
To be continued.
2005.01.15.Sat.
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