共に生きる者

11.An Extra


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* Kasumi *
 ほんの少し不安だったの。
 だって、この一ヶ月、昂貴と逢わない日なんてほとんどなかったから。

 帰省したその日、彼からのメールが来ていなかったことにがっかりしたのは、たぶん自信がなかったから。
 昂貴は私のことなんか忘れちゃったのかなと思って。
 私だって家族と楽しい時間を過ごしていたのにね。
 なにを考えているんだろうって、自分で自分に呆れたけれど、メールが来ていないことを寂しく思う自分自身に、少し驚いた。
 携帯の存在すら忘れてしまうことさえ、これまで幾度もあったのに。

 もし、これが昂貴以外のひとだったら、メールを送れなかったかもしれない。
 でも、私たちは、ただ時間を共有してきたわけじゃないから。
 お互いにとってお互いが必要なんだって、何度も確かめ合ってきたんだもの。
 大丈夫、と気を取り直してメールをしたら、すぐに返ってきたのが嬉しくて。
 それだけで、私は元気になれた。
 さっきまで密かに抱いていた不安なんて、簡単にどこかへ吹き飛んでしまう。

 今度は、単純だなぁって自分で自分に呆れたけど、さっきとは全然違う気分。
 嬉しくて、くすぐったくて、なんでも笑い飛ばせちゃうような楽しい気持ち。
 私って、自信がないせいで要らない不安を抱え込んじゃうことが多いのよね。
 こういうところ、成長ないなぁって思う一方で、大丈夫と思えた自分が嬉しい。
 うん、ほんのちょっとくらいは、成長してるかもしれない。
 昂貴と逢えたから。

 彼の居ない傍らは、どこか寂しいけれど、不安でどうしようもなくなることはない。
 だって、私が彼のことを考えるように、彼も私のことを考えてくれるから。
 聞かなくてもわかるわ。そんなこと当然でしょう、昂貴?
 一緒に居た時だって、さっき届いたメールの内容だって、あたりまえだろって笑顔で言う昂貴が思い浮かぶもの。
 だから、きっと大丈夫。

 すぐそばに居ないひとを思うことで、あたたかい気持ちになるなんて知らなかった。
 数日後に会える、その約束だけで、私の心に優しい灯がともる。

 ほんのちょっとの不安は、やっぱりあるかもしれないけれど、きっと彼に逢えば大丈夫。

 * * * * *

 再会は、一瞬の視線の交差から――
 正直、驚いた。
 彼が先に待っていてくれるなんて思いもしなかったから。

 顔を見て、目を合わせて、
 あぁ、私、このひとに逢いたかったんだと実感する。
 ――じゃあ、昂貴は?
 そう思って見つめたら、彼も同じように私を見つめていてくれた。
 私だけが、彼に逢いたいんじゃない。
 彼も私に逢いたいと思っていてくれたのかなって思ったら、一番したいことを実行してた。

 ……ああ、そうか。
 これでいいんだ。

 素直な気持ちで、逢いたかったっていうことを表現するだけでいいんだ。

 構えていた自分が馬鹿みたい。

 ほんのちょっとの不安なんて、彼に逢えた嬉しさで、簡単にかき消されていく。
 三日間という隔たりも、今の私たちには喜びを増幅させる要素にしかならない。

 ほらね、やっぱり大丈夫。

 それでも、この後の行為には、
 ほんのちょっとの不安と、もっと大きな期待があるけどね。
Line
To be continued.
2007.07.15.Sun.
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