"Ti amo."
07.An Extra
* Kouki *
「……Ti amo, Kasumi……」
それは、ずっと伝えたかったひとこと。
意味なんか、きっと知らないだろう。
もしかしたら一単語だと思っているかもしれない。
だけどいつか気づいて欲しい。
俺の、本当の気持ちに。
日本語でなんて、言えやしない。
英語でなんて、もっと言えない。
俺に、そんな権利も資格もない。
それに言ってしまったら安っぽくなってしまいそうで。
だけどどうしても伝えたくて。だから。
フランス語は、文学を語るためにある。
ドイツ語は、哲学を語るためにある。
ギリシャ語は、神を語るためにある。
では、イタリア語は?
――それは、愛を語るためにある。
風澄。
おまえの心は、あいつのもの。
お互い、叶わない恋をしてる。
俺のことを好きになってくれなくてもいいんだ。
いつも、そう思っていた。
そうでなくても、風澄は俺の隣で笑っていてくれる。
俺に抱かれて、俺の全てを受け容れてくれる。
俺の腕の中で、他の男を想っていてもいい。
だけど他の男のものにはならないで欲しかった。絶対に。
だからいつもあんなふうに抱いていた。
足腰立てなくなるほど激しく。何度もイかせられなきゃ満足できないように。身体の芯まで、俺でなければ感じなくなるように。
たった四度の行為でも。
抱いている間の、ほんの少しの寂しさと、それを凌駕する支配欲と征服欲――
だけど、それで心の底から満たされるわけじゃない。
心のどこかに臆病な自分がいることを知っている。
言いたいけれど言えない言葉が咽喉のギリギリまで出かかっていた。いつも。
たとえ打ち明けても、彼女は途惑うばかりだろう。
今はまだ、この関係を崩すほうが怖い。
だからこの想いは伝えられない。決して。
俺たちの距離が近づいても、行為の歪みは最初の日から変わっていなかった。
切なさともどかしさを感じてはいたけれど、どうしようもない。
触れ合う心地よさと悦びが、それで変わるわけでもなかったし。
……わずかに痛む、この胸以外には。
けれど、五度目のその時、風澄が言った。
普通にして欲しいと。
いいのか? って、聞こうと思った。
だけど、聞くまでもなかった。
だって風澄が言ったんだ。
俺とするのが気持ちいいって。俺とするのが好きだって。
俺に抱かれて溺れて、なにもかも忘れていたいって。
『宗哉』じゃ、なくて。
決定的ななにかを言ったわけじゃない。
決定的ななにかがあったわけじゃない。
けれどあの雨の日、確かになにかが変わった。
おまえが、俺を見ていた。俺の腕の中で、俺だけを。
"Ti amo."なんて、誰かに言える日が来るとは思わなかった。
おまえはこの言葉を知らないけれど、その意味を教えてくれた。
風澄に会って初めて、その意味がわかったんだ。
惹かれていた。初めてその姿を目にしたその日からずっと。
日ごとその思いは強くなっていく。募っていく。限界なんかないかのように。
初めて抱いた日に、心底好きだと思った。
知れば知るほど、愛しいと思った。すべてを。
面と向かっては言えないけれど、いつも想っている。
いつか伝わるように。
Ti amo. Ti voglio bene.
Amore mio, Kasumi...
「……Ti amo, Kasumi……」
それは、ずっと伝えたかったひとこと。
意味なんか、きっと知らないだろう。
もしかしたら一単語だと思っているかもしれない。
だけどいつか気づいて欲しい。
俺の、本当の気持ちに。
日本語でなんて、言えやしない。
英語でなんて、もっと言えない。
俺に、そんな権利も資格もない。
それに言ってしまったら安っぽくなってしまいそうで。
だけどどうしても伝えたくて。だから。
フランス語は、文学を語るためにある。
ドイツ語は、哲学を語るためにある。
ギリシャ語は、神を語るためにある。
では、イタリア語は?
――それは、愛を語るためにある。
風澄。
おまえの心は、あいつのもの。
お互い、叶わない恋をしてる。
俺のことを好きになってくれなくてもいいんだ。
いつも、そう思っていた。
そうでなくても、風澄は俺の隣で笑っていてくれる。
俺に抱かれて、俺の全てを受け容れてくれる。
俺の腕の中で、他の男を想っていてもいい。
だけど他の男のものにはならないで欲しかった。絶対に。
だからいつもあんなふうに抱いていた。
足腰立てなくなるほど激しく。何度もイかせられなきゃ満足できないように。身体の芯まで、俺でなければ感じなくなるように。
たった四度の行為でも。
抱いている間の、ほんの少しの寂しさと、それを凌駕する支配欲と征服欲――
だけど、それで心の底から満たされるわけじゃない。
心のどこかに臆病な自分がいることを知っている。
言いたいけれど言えない言葉が咽喉のギリギリまで出かかっていた。いつも。
たとえ打ち明けても、彼女は途惑うばかりだろう。
今はまだ、この関係を崩すほうが怖い。
だからこの想いは伝えられない。決して。
俺たちの距離が近づいても、行為の歪みは最初の日から変わっていなかった。
切なさともどかしさを感じてはいたけれど、どうしようもない。
触れ合う心地よさと悦びが、それで変わるわけでもなかったし。
……わずかに痛む、この胸以外には。
けれど、五度目のその時、風澄が言った。
普通にして欲しいと。
いいのか? って、聞こうと思った。
だけど、聞くまでもなかった。
だって風澄が言ったんだ。
俺とするのが気持ちいいって。俺とするのが好きだって。
俺に抱かれて溺れて、なにもかも忘れていたいって。
『宗哉』じゃ、なくて。
決定的ななにかを言ったわけじゃない。
決定的ななにかがあったわけじゃない。
けれどあの雨の日、確かになにかが変わった。
おまえが、俺を見ていた。俺の腕の中で、俺だけを。
"Ti amo."なんて、誰かに言える日が来るとは思わなかった。
おまえはこの言葉を知らないけれど、その意味を教えてくれた。
風澄に会って初めて、その意味がわかったんだ。
惹かれていた。初めてその姿を目にしたその日からずっと。
日ごとその思いは強くなっていく。募っていく。限界なんかないかのように。
初めて抱いた日に、心底好きだと思った。
知れば知るほど、愛しいと思った。すべてを。
面と向かっては言えないけれど、いつも想っている。
いつか伝わるように。
Ti amo. Ti voglio bene.
Amore mio, Kasumi...
First Section - Chapter 3 The End.
2003.10.19.Sun.
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