"Ti amo."
04.会話
「続き、していいか?」
どっちの続きよ? 絶対、『Lezione d'italiano』のほうなんだろうな。ううう、嫌だあぁ〜って顔をしたけど、聞いてくれない。まだ意地悪なまま。でも、不安は取り除いてくれる。目隠しも、もうしない。手錠はかけたままだけど。
「Parlami oli te. Vorrei conoscerti.」
え? なに、それ。
疑問形じゃないから、答えなきゃいけないものじゃないんだろうけど、言葉の意味がわからない。なんか、どこかで読んだ気もするんだけど。
だからきょとんとしてたら。
「なんでもいいからもっと喋れよ」
って。そんな意味だったっけ? ちょっと違う気がするんだけど。今、挿入はされてるけど動かれてはいないから、なんとか喋れないこともないんだけど……指とは比べ物にならない、あの異物感が気になって、なんだか頭が働かない。
私の体の中に、彼がいる。
繋がったところからお互いのわずかな振動まで伝わるなんて知らなかった。どきどきするのに落ち着くのはどうして? 彼の腕の中で、その身体が作る影に包まれてる。とんでもない状況なのにどうして安心できるの? そして穏やかに快楽が私の身体を侵食していく。じっとしているのに、どんどん感じていく。挿れられているだけで。この感触に、感覚に、もうすっかり慣らされてしまった。このひととはまだ数えるほどしかしていないのに、その密度は過去の経験の比較にすらならない。
確実に、私の身体に刻まれていく。快楽が。
でも今は流されちゃいけない。集中しなきゃ!
「じゃあ、話しかけてもいい?」
「いいよ、イタリア語でなら。返事もできるだけ簡単にする」
「ええと……Quali sono i cibi che preferisci?」
復習した例文から、ひとつひとつ思い出して、まずは食べ物の好みから。和食が好きじゃないのは知ってるけど、好きなのはなんだろう。やっぱりイタリアンかな? それともフレンチ? 意外にも中華だったりして。そしたら。
「Kasumi.」
仙人じゃあるまいしなに言ってるのかしらこのひと? それにしても、なんでそんなににやにやしてるのあなた……って思ったところで気づいた。
「っ……馬鹿あ……」
「それもイタリア語で、はいどうぞ」
「知らないわよ!」
「英語に似てるから憶えやすいのはStupido。あと、Pezzo di cretinoとか。もっと悪い言葉だと、IdiotaとかImbecilleなんて言うんだ」
「そんな悪い言葉教えてどうするのよ……」
だいたい、試験に出ないわよそんなの。まぁこの勉強を続けるならイタリア語から逃れることはできないから、知識は増やしておくに越したことはないけれど。
「イタリアの男は女性を見たら寄っていってすぐ口説くとかいうだろ。こう言ってあしらってやれよ。まぁ実際は、そこまですごくないだろうけどな」
「喧嘩を唆(そそのか)してどうするのよあなたは……」
「風澄が大好物なのは、嘘じゃないぜ?」
ううう。意地悪なくせに、どうしてこんなに甘いのよ?
「それで、食べ物は? イタリアン好きよね?」
「だからKasumi……嘘ですごめんなさい」
もう、今度こそ本気で怒るからねって顔で睨みつけたら、やっと反省したみたい。
嬉しくないわけじゃ、ないのよ。でも、こういう状況で冗談半分に言われるのって……複雑。そりゃあ他の状況で言えるような関係じゃないんだけど……ちょっと悲しいっていうか、切ないでしょう? 冗談にできる程度のことなんじゃないかって。でも、昂貴の台詞は違うと思いたい……。
あれ?
どうして、冗談だったら嫌なんだろう。
軽いひとが嫌いだから? いいかげんなひとが嫌だから?
それとも。
「イタリアンだったら、そうだな、Penne al Golgonzola, Risotto di Parmigiano」
日本語混じりに話してくれているのは、私にもわかるようにっていう配慮なんだろうな。ゴルゴンゾーラのペンネにパルミジャーノ・レッジャーノのリゾット……かなりのチーズ好きなのね。昨日も色々買ってたし。私もチーズは好きだけど、日本向けの癖のないものがいいな。ヨーロッパ産のでも、カマンベールとかブリーとかモッツァレラとかの比較的とっつきやすいものならいいんだけど、ロックフォールとか絶対無理。もともときついもの苦手だしね。
でも、そんなことさえ私たち今まで知らなかったんだ。あらためて考えてみると、お互いのことをよくわかっていない。研究の内容とか傾向とか、そういうことは結構知ってるのに、食べ物の好みさえ知らなかったなんて。もちろん、一緒に過ごすうちに知ったこともあるけど、彼のことをどれほど知っているかと聞かれたら、知らないことのほうが圧倒的に多いと思う。だけど、どうして一緒にいても不安がないんだろう。まるで何年もずっとこうしていたような気さえしてくるのは、どうして……?
「風澄は?」
考えていたところにいきなり聞かれてきょとんとしてしまう。
は? 私?
「日本語でいいからさ」
「えっと……スパゲッティだったら、外で食べるときにはサーモンときのこのクリームソースが定番。特にサーモンもきのこも好きじゃないのに、なぜか食べちゃうのよ」
「へぇ……イタリア語だったら、Salmone e Funghi al Cremaだな」
「あ、そうか。それなら、考えれば言えるかも」
「クリーム系が好きなのか?」
「うん。結構こってりしたの好き」
「和食駄目だしな」
駄目ってわけじゃないんだけど。そうだねって笑って。
こんなことしてる最中なのに、なにやってるんだろう、私たち。
「じゃあ、次はクリームソースの作ってやるよ」
「ほんと? あっあとね、ラザニアがすごく好き。あとドリア」
「どれもこれもホワイトソース系じゃないか」
「ドリアはカレーソースとかもあるでしょ。それにラザニアはミートソースも入ってるし」
「半分だけな」
「まぁ、そうだけど。あ、ねえ、好きな飲み物は?」
「知ってるだろ、紅茶とコーヒーとココア。紅茶はアールグレイ、コーヒーはマンデリンだな。大抵どっちもブラックで飲んでる。ただ、家に置いてた産直のりんごジュースは別格。アルコールはワインなら結構いける。他はそんなに好きじゃないな。家系的にやたら強いけどワインほどには飲まない。……って、おい、イタリア語じゃないじゃないか」
「あ、そっか。えっと……」
「いいから、先におまえの好みを答えろよ」
「えっと……紅茶はミルクティーじゃないと飲めないの。渋いから。ロイヤルミルクティーも好き。茶葉はアッサムとセイロン。特にヌワラエリヤかな。アールグレイも好きだけど、匂いのキツいのは好きじゃないの。ダージリンは苦手だから出さないでね」
「了解。だからなかったのか。紅茶好きじゃなくても大抵ダージリンの葉はあるからさ、なんでだろうって思ってた。コーヒーは?」
「酸味のないものが好きで、モカ系は嫌。あとブルーマウンテンも嫌い。ブラックも飲めるけどカフェオレのほうが好きかな」
「おまえ、日本の定番とか王道とか嫌いだろ」
くすくす笑って言われた。ひねくれ者とでも言いたいの? モカは日本で一番人気らしいの。道理で喫茶店で『ブレンド』の次に『モカ』をよく見かけるわけだわ。あんな酸っぱいコーヒーのどこが美味しいのか私にはさっぱりわからないけど。あと、ブルーマウンテンって高いコーヒーの代名詞みたいな感じだけど、昔飲んだらなんだか薄くてはっきりしなくて全然美味しくなかったのよね。ダージリンはあの独特の渋みが大の苦手。まぁ、こういうのはひとそれぞれなんだけど。
「ううう……でも生まれも育ちも東京よ?」
「知ってる。あとは?」
「アルコールはあんまり強くないから、ほとんど飲まない。あんまり味も好きじゃないの。嗜み程度っていうの? それくらいなら大丈夫なんだけど。あと日本茶は煎茶がいいな。中国茶も好き」
「アルコール、すごい強そうなのにな。意外。中国茶って烏龍茶とか?」
「それもだけど、ジャスミン茶が好き。中華料理屋さんで出るようなの」
「へぇ、じゃあ、次は中国茶も凝ってみるかな。他の質問は? あ、次はイタリア語な」
「うううん、じゃあ……Quale colore ti piace?」
「好きな色……そうだな、Mi piace il bianco, il blu, e il celeste.」
「そうなの? 結構、思ったとおりかも」
白と、青と、空色。なんだかわかるな。昂貴ってね、澄んだイメージなの。意地悪だったりするんだけど、なんていうのかな、心のどこかがすごく綺麗な気がする。研究に対する姿勢なんて、あんなに濁りなくまっすぐなんだもの。『澄んだ風』なんて名前もらってる私は、全然そんなイメージじゃないのにね。全然青っぽくないもの。そういう静かな感じじゃないのよ。そういえば昂貴って、名前の由来はなんなんだろう? 昂って、『昂然』とかの昂よね? うわあ、なんか偉そうなところがぴったり……って、私ってばこのひと褒めたいのか貶したいのか、どっちなんだろう。思ったままなんだけど。そう考えると不思議な人だな。
「でもbluって真っ青よね? なんだか意外」
「いや、鮮やかな色は結構好きなんだよ。彩度が高いと発色が綺麗だから気持ち良いだろ。俺には強すぎるんじゃないかと思って身に着けたりはしないんだけどさ。おまえは原色とか、はっきりとした色が似合うからいいな」
「そう?」
「ああ。そのほうが美人に見える奴って珍しいと思う。普通、負けるだろ」
美人って。
そのほうがっていっても、やっぱり褒めてくれてるんだろうな。自分で言うのもなんだけど、そう言われたことは結構あるんだけど、こんなふうにさらっと簡単に言われたの初めて。なんだか、かえって嬉しいっていうか、本当にそう思ってくれているんだって素直に思える。
「風澄は? 原色でも特にどれ?」
「えっと……Mi piace il nero e il bianco.」
「お、偉いなイタリア語で。だからあんな白と黒ばっかりなのか」
「うん、ほとんどそう。無彩色好き。有彩色なら、青とか、ピンクとか、紫とか……やっぱり鮮やかな色ばっかりだなぁ」
「赤は?」
「赤?」
「似合いそうだから。原色の真っ赤」
「……そう?」
今度探してみようかな、赤い服。でもそんな真っ赤って、着るのに気合いが要りそう。
「でも夏はちょっと暑苦しいよ、それ」
「夏なのに黒着てるやつに言われてもなぁ」
ううう、そうか。反論できません。
「じゃあ、秋になったら探しに行こうな」
え?
「選んでやるから」
って、なに言ってるの!?
「冬のほうがいいかな。クリスマスに、赤と白でコーディネイトしてサンタ風」
なに言ってるのこのひと……そういう趣味? って言うかクリスマスってクリスマスって! ほんとにもう、なに考えてるのよっ。だいたい、まだ半年も先よ?
……それまで、こうして一緒にいられたり、するのかな。
今年のクリスマスなんて、卒論に追われて、ないも同然なんだろうけど。
こんな時間、いつまで続くのかな。いつかなくなっちゃうのかな。二度と一緒にいられなくなったり、二度と会えなくなったり、するのかな。
宗哉のときみたいに。
そんな日がきたら、私はいったいどうなるんだろう……。
どっちの続きよ? 絶対、『Lezione d'italiano』のほうなんだろうな。ううう、嫌だあぁ〜って顔をしたけど、聞いてくれない。まだ意地悪なまま。でも、不安は取り除いてくれる。目隠しも、もうしない。手錠はかけたままだけど。
「Parlami oli te. Vorrei conoscerti.」
え? なに、それ。
疑問形じゃないから、答えなきゃいけないものじゃないんだろうけど、言葉の意味がわからない。なんか、どこかで読んだ気もするんだけど。
だからきょとんとしてたら。
「なんでもいいからもっと喋れよ」
って。そんな意味だったっけ? ちょっと違う気がするんだけど。今、挿入はされてるけど動かれてはいないから、なんとか喋れないこともないんだけど……指とは比べ物にならない、あの異物感が気になって、なんだか頭が働かない。
私の体の中に、彼がいる。
繋がったところからお互いのわずかな振動まで伝わるなんて知らなかった。どきどきするのに落ち着くのはどうして? 彼の腕の中で、その身体が作る影に包まれてる。とんでもない状況なのにどうして安心できるの? そして穏やかに快楽が私の身体を侵食していく。じっとしているのに、どんどん感じていく。挿れられているだけで。この感触に、感覚に、もうすっかり慣らされてしまった。このひととはまだ数えるほどしかしていないのに、その密度は過去の経験の比較にすらならない。
確実に、私の身体に刻まれていく。快楽が。
でも今は流されちゃいけない。集中しなきゃ!
「じゃあ、話しかけてもいい?」
「いいよ、イタリア語でなら。返事もできるだけ簡単にする」
「ええと……Quali sono i cibi che preferisci?」
復習した例文から、ひとつひとつ思い出して、まずは食べ物の好みから。和食が好きじゃないのは知ってるけど、好きなのはなんだろう。やっぱりイタリアンかな? それともフレンチ? 意外にも中華だったりして。そしたら。
「Kasumi.」
仙人じゃあるまいしなに言ってるのかしらこのひと? それにしても、なんでそんなににやにやしてるのあなた……って思ったところで気づいた。
「っ……馬鹿あ……」
「それもイタリア語で、はいどうぞ」
「知らないわよ!」
「英語に似てるから憶えやすいのはStupido。あと、Pezzo di cretinoとか。もっと悪い言葉だと、IdiotaとかImbecilleなんて言うんだ」
「そんな悪い言葉教えてどうするのよ……」
だいたい、試験に出ないわよそんなの。まぁこの勉強を続けるならイタリア語から逃れることはできないから、知識は増やしておくに越したことはないけれど。
「イタリアの男は女性を見たら寄っていってすぐ口説くとかいうだろ。こう言ってあしらってやれよ。まぁ実際は、そこまですごくないだろうけどな」
「喧嘩を唆(そそのか)してどうするのよあなたは……」
「風澄が大好物なのは、嘘じゃないぜ?」
ううう。意地悪なくせに、どうしてこんなに甘いのよ?
「それで、食べ物は? イタリアン好きよね?」
「だからKasumi……嘘ですごめんなさい」
もう、今度こそ本気で怒るからねって顔で睨みつけたら、やっと反省したみたい。
嬉しくないわけじゃ、ないのよ。でも、こういう状況で冗談半分に言われるのって……複雑。そりゃあ他の状況で言えるような関係じゃないんだけど……ちょっと悲しいっていうか、切ないでしょう? 冗談にできる程度のことなんじゃないかって。でも、昂貴の台詞は違うと思いたい……。
あれ?
どうして、冗談だったら嫌なんだろう。
軽いひとが嫌いだから? いいかげんなひとが嫌だから?
それとも。
「イタリアンだったら、そうだな、Penne al Golgonzola, Risotto di Parmigiano」
日本語混じりに話してくれているのは、私にもわかるようにっていう配慮なんだろうな。ゴルゴンゾーラのペンネにパルミジャーノ・レッジャーノのリゾット……かなりのチーズ好きなのね。昨日も色々買ってたし。私もチーズは好きだけど、日本向けの癖のないものがいいな。ヨーロッパ産のでも、カマンベールとかブリーとかモッツァレラとかの比較的とっつきやすいものならいいんだけど、ロックフォールとか絶対無理。もともときついもの苦手だしね。
でも、そんなことさえ私たち今まで知らなかったんだ。あらためて考えてみると、お互いのことをよくわかっていない。研究の内容とか傾向とか、そういうことは結構知ってるのに、食べ物の好みさえ知らなかったなんて。もちろん、一緒に過ごすうちに知ったこともあるけど、彼のことをどれほど知っているかと聞かれたら、知らないことのほうが圧倒的に多いと思う。だけど、どうして一緒にいても不安がないんだろう。まるで何年もずっとこうしていたような気さえしてくるのは、どうして……?
「風澄は?」
考えていたところにいきなり聞かれてきょとんとしてしまう。
は? 私?
「日本語でいいからさ」
「えっと……スパゲッティだったら、外で食べるときにはサーモンときのこのクリームソースが定番。特にサーモンもきのこも好きじゃないのに、なぜか食べちゃうのよ」
「へぇ……イタリア語だったら、Salmone e Funghi al Cremaだな」
「あ、そうか。それなら、考えれば言えるかも」
「クリーム系が好きなのか?」
「うん。結構こってりしたの好き」
「和食駄目だしな」
駄目ってわけじゃないんだけど。そうだねって笑って。
こんなことしてる最中なのに、なにやってるんだろう、私たち。
「じゃあ、次はクリームソースの作ってやるよ」
「ほんと? あっあとね、ラザニアがすごく好き。あとドリア」
「どれもこれもホワイトソース系じゃないか」
「ドリアはカレーソースとかもあるでしょ。それにラザニアはミートソースも入ってるし」
「半分だけな」
「まぁ、そうだけど。あ、ねえ、好きな飲み物は?」
「知ってるだろ、紅茶とコーヒーとココア。紅茶はアールグレイ、コーヒーはマンデリンだな。大抵どっちもブラックで飲んでる。ただ、家に置いてた産直のりんごジュースは別格。アルコールはワインなら結構いける。他はそんなに好きじゃないな。家系的にやたら強いけどワインほどには飲まない。……って、おい、イタリア語じゃないじゃないか」
「あ、そっか。えっと……」
「いいから、先におまえの好みを答えろよ」
「えっと……紅茶はミルクティーじゃないと飲めないの。渋いから。ロイヤルミルクティーも好き。茶葉はアッサムとセイロン。特にヌワラエリヤかな。アールグレイも好きだけど、匂いのキツいのは好きじゃないの。ダージリンは苦手だから出さないでね」
「了解。だからなかったのか。紅茶好きじゃなくても大抵ダージリンの葉はあるからさ、なんでだろうって思ってた。コーヒーは?」
「酸味のないものが好きで、モカ系は嫌。あとブルーマウンテンも嫌い。ブラックも飲めるけどカフェオレのほうが好きかな」
「おまえ、日本の定番とか王道とか嫌いだろ」
くすくす笑って言われた。ひねくれ者とでも言いたいの? モカは日本で一番人気らしいの。道理で喫茶店で『ブレンド』の次に『モカ』をよく見かけるわけだわ。あんな酸っぱいコーヒーのどこが美味しいのか私にはさっぱりわからないけど。あと、ブルーマウンテンって高いコーヒーの代名詞みたいな感じだけど、昔飲んだらなんだか薄くてはっきりしなくて全然美味しくなかったのよね。ダージリンはあの独特の渋みが大の苦手。まぁ、こういうのはひとそれぞれなんだけど。
「ううう……でも生まれも育ちも東京よ?」
「知ってる。あとは?」
「アルコールはあんまり強くないから、ほとんど飲まない。あんまり味も好きじゃないの。嗜み程度っていうの? それくらいなら大丈夫なんだけど。あと日本茶は煎茶がいいな。中国茶も好き」
「アルコール、すごい強そうなのにな。意外。中国茶って烏龍茶とか?」
「それもだけど、ジャスミン茶が好き。中華料理屋さんで出るようなの」
「へぇ、じゃあ、次は中国茶も凝ってみるかな。他の質問は? あ、次はイタリア語な」
「うううん、じゃあ……Quale colore ti piace?」
「好きな色……そうだな、Mi piace il bianco, il blu, e il celeste.」
「そうなの? 結構、思ったとおりかも」
白と、青と、空色。なんだかわかるな。昂貴ってね、澄んだイメージなの。意地悪だったりするんだけど、なんていうのかな、心のどこかがすごく綺麗な気がする。研究に対する姿勢なんて、あんなに濁りなくまっすぐなんだもの。『澄んだ風』なんて名前もらってる私は、全然そんなイメージじゃないのにね。全然青っぽくないもの。そういう静かな感じじゃないのよ。そういえば昂貴って、名前の由来はなんなんだろう? 昂って、『昂然』とかの昂よね? うわあ、なんか偉そうなところがぴったり……って、私ってばこのひと褒めたいのか貶したいのか、どっちなんだろう。思ったままなんだけど。そう考えると不思議な人だな。
「でもbluって真っ青よね? なんだか意外」
「いや、鮮やかな色は結構好きなんだよ。彩度が高いと発色が綺麗だから気持ち良いだろ。俺には強すぎるんじゃないかと思って身に着けたりはしないんだけどさ。おまえは原色とか、はっきりとした色が似合うからいいな」
「そう?」
「ああ。そのほうが美人に見える奴って珍しいと思う。普通、負けるだろ」
美人って。
そのほうがっていっても、やっぱり褒めてくれてるんだろうな。自分で言うのもなんだけど、そう言われたことは結構あるんだけど、こんなふうにさらっと簡単に言われたの初めて。なんだか、かえって嬉しいっていうか、本当にそう思ってくれているんだって素直に思える。
「風澄は? 原色でも特にどれ?」
「えっと……Mi piace il nero e il bianco.」
「お、偉いなイタリア語で。だからあんな白と黒ばっかりなのか」
「うん、ほとんどそう。無彩色好き。有彩色なら、青とか、ピンクとか、紫とか……やっぱり鮮やかな色ばっかりだなぁ」
「赤は?」
「赤?」
「似合いそうだから。原色の真っ赤」
「……そう?」
今度探してみようかな、赤い服。でもそんな真っ赤って、着るのに気合いが要りそう。
「でも夏はちょっと暑苦しいよ、それ」
「夏なのに黒着てるやつに言われてもなぁ」
ううう、そうか。反論できません。
「じゃあ、秋になったら探しに行こうな」
え?
「選んでやるから」
って、なに言ってるの!?
「冬のほうがいいかな。クリスマスに、赤と白でコーディネイトしてサンタ風」
なに言ってるのこのひと……そういう趣味? って言うかクリスマスってクリスマスって! ほんとにもう、なに考えてるのよっ。だいたい、まだ半年も先よ?
……それまで、こうして一緒にいられたり、するのかな。
今年のクリスマスなんて、卒論に追われて、ないも同然なんだろうけど。
こんな時間、いつまで続くのかな。いつかなくなっちゃうのかな。二度と一緒にいられなくなったり、二度と会えなくなったり、するのかな。
宗哉のときみたいに。
そんな日がきたら、私はいったいどうなるんだろう……。
To be continued.
2003.10.13.Mon.
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