最悪の巡り逢い

08.An Extra


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* Kouki *
 ずっと想像していた。自らの恋心に気づいてから。
 その顔が笑ったら、どんなふうになるのだろう。
 その声で名前を呼ばれたら、どんなふうに響くのだろう。
 そして、その服の下にはどんな身体が隠されているのだろうと。

 ……何度想像して抜いたか知れない。
 悪いとは思ったけれど、彼女が俺のことを知ってるわけでもあるまいし。
 考えるだけでゾクゾクした。目の前にいるわけでもないのに。
 そして、終わったあとの背徳感と、虚脱感。
 虚しかった。自分の中は空っぽで、なのに真っ黒に汚れている気がした。
 彼女は黒い服を着ていてもまっさらだ。
 その名のとおり、誰よりもすがすがしい空気を持った女性。
 なのに、俺は。

 手が届かない存在だと思っていた。
 地位や学力ではなく、精神のヒエラルキーが違いすぎると思っていた。
 きっと彼女にはこんな醜い欲望なんてない。
 だけどその彼女の欲望や悲しみを知ったとき、期待はずれだとは思わなかった。
 同類だと知っても嫌悪感は全くなかった。その想いがあまりに切なくて、その相手に猛烈に嫉妬して、彼女をそいつから解放してやりたいと思った。
 そして俺だけを見てくれるように。

 ……三年間、ずっと想い描いていた、一生叶わないと思っていたその行為。
 想像の中よりも、夢の中よりも、彼女は美しく、激しく、そして淫らだった。
 俺の心臓は壊れそうなくらいに高鳴っていた。
 たぶん、人生で一番最初にした時よりもずっと。
 夢じゃない――夢のような行為の中で、ずっとそう言い聞かせていた。
 緊張しているのに幸せで、触れているのに届かないから切なくて。
 その中は初めてかと思うほどにきつく、狭く、熱かった。
 あんなに気持ちが良かったのは初めてだった。
 今までの行為なんか、比較にもなりやしない。
 気絶半分で隣に眠っている彼女に触れ、本当に夢ではないんだと知る。
 耳を澄ますと静かな寝息が聞こえ、肌に触れればおかしくなりそうなほど柔らかく心地よい。抱きしめると鼓動が伝わってくる。彼女の熱さも。

 目が覚めて、そこに彼女が居たときも、また俺は夢を見ているのではないかと思った。
 だけど、それは本物だった。
 三年間恋焦がれた女性が俺の腕の中に居た。

 その日、ひとつ誓ったことがある。
 もう二度と離さない……こうなったからには、決して。
 いつか必ずその苦しみから解放して、心から笑えるように。
 その心から『宗哉』の影を消し去って、俺だけを求めるように。

 こうしてずっと抱きしめていられたら、どんなにいいだろう。
 こんな気持ちを知るまでは、それで生きていけた。
 やりたいことがあった。それだけが大事で、他はどうでも良かった。
 一生ひとりで生きていくのも構わないと思っていた。
 だけど俺は風澄を知ってしまったから、もう、ひとりではいられない。
 風澄が欲しい、他の誰もいらないから。

 だから風澄……どうか、俺のそばに。
 今は、他の誰かを想っていてもいいから……。
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First Section - Chapter 1 The End.
2003.09.11.Thu.
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