Rosy Chain Side Story

01.Lady, please Kiss me...


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* Kouki *
 行為の最中は、言うまでもなく。

 起きた時。
 出かける時。
 眠る時。

 それはもう恒例で、あたりまえで、既に挨拶代わりでさえあったけれど。

 だけど、どうして、君からキスしてくれたことはないのかな。

 * * * * *

「あのさぁ、前から聞きたかったんだけど」
「なっ……な、なに?」
 口唇を離した後、突然真面目に問い掛けた俺に、なぜか風澄は焦った。
 また何か妙なことを言い出されるのではないかと思ったのかもしれない。
 ……まぁ、否定はしないが(と言うより、できないが)。
「風澄からは、してくれないのか?」
「え……、えええええっ!?」
 そんな飛びすさるようなことかねえ……。
「いいじゃん、別に初めてじゃあるまいし」
「なっ……私は、自分からしたことなんか今まで一度もないわよっ!」
「ほう、そうだったのか。それは嬉しい」
「……って、いやあぁ! なんてこと言わせるのよぉ!」
 うーん。そうだろうなーとは思っていたけど、本当にそうだったとは。
 なんたる幸運。
 ここはひとつ、いただいておくべきだろう。
 first active kissとでも言おうか。風澄のファースト能動的キスというやつを。
 ……なんだそりゃ、俺。
「だいたい、なんであなたは毎回突然言い出すのよっ!」
 そのほうが風澄ちゃんの反応が可愛いからです。
 ……とは言えないが。うん。
「思い立ったが吉日って言うだろ?」
「何がどう吉日なのよっ。せめて心の準備くらいさせてよね!」
「いいよ、それくらい。カウントダウンいきまーす、せーのっ、ごーぉ、よーん、さーん」
「ちょっ……早すぎだってばっ!」
「にーぃ、いーち、ぜーろ。ほら風澄、準備はできた?」
「……っ……」
 こら、風澄。
 ここまできてしないなんて言ったら俺は泣くぞ?
 ……風澄に拒否する余裕を作らないよう、勢いで押していることは認めるが。
「目、閉じてよ……」
「さんざん開けたまましてるだろ?」
「恥ずかしいのっ!」
「はいはい、わかったわかった」
 なんつぅか、目を閉じて待ってるのって、手持ち無沙汰。
 一方的に見られてるってのも滅多にないし。
「……っ、いくよ……」
 逡巡していたのだろう。しばらくの間が空いた後、やっと意を決したらしい風澄の小さな声が届いた。
「は……」
 閉じた視界でも、電気をつけた部屋の中では、明るいことは解る。
 それが、ゆっくりと、彼女の存在が近づいてくるごとに、暗くなって。
 そのまま、優しく、温かくも柔らかいものが重なって……。
 ……って、おいこらっ!
「一瞬だけかよ」
「……だめ?」
「風澄は、こんなキスで満足できるんだ?」
 してくれることは嬉しいけどさ。
 認めてあげません。
「ううう……」
 否定できないよなぁ?
 自分からはしなくても、あんなに貪欲に応えてくれるんだから。
「せめて舌は入れるように」
「っ……まっ、真顔でなんてことを言うのよあなたって人はっ!」
「ふぅん? じゃあ、風澄が舌を入れてくれなきゃいつまでも言うぞー? 風澄ちゃーん、目の前に、風澄のキス欠乏症の患者が居まーっす、至急、ディープキスしてくださーい」
「いやああぁ! 黙ってっ、黙ってくれなきゃしないからね!」
「ほう、つまり黙ればしてくれると」
「ううう……」
「ディープキスは恥ずかしい?」
「あたりまえでしょ!? そうでなくても恥ずかしいんだからっ……」
 その割には、毎回しっかり応えてくれるような気がするんですが?
 ……なんてな。これは、ちょっといじめすぎだよな。
「じゃあ、フレンチキス」
「フレンチキス……って?」
「知らない? それならまずは考えてみようね」
 うーん、知らなかったか。
 でも、たぶん、文脈で間違えてくれるだろう。
「当然、口じゃなくて、舌で説明するように」
「またそういうことを……!」
「できるよな?」
「……………………目……閉じて」
 言われたままに閉じると、間もなく彼女の口唇が重なった。
 ただ触れ合わせ、時折悪戯をするように上唇を、次いで下唇をついばむ。
 温もりを感じるだけの、静かな時間が流れる。
 だけど……。
「くっくっく……あははははっ! やっぱりな!」
「な、なに?」
 うっかり笑いが抑えきれず、俺のほうが降参してしまった。
 きょとんとする風澄に、余計おかしくなってしまう。
「フレンチキスっていうのは、軽いキスじゃなくて、ディープキスのことだよ」
「なっ……騙したわねえっ!?」
「騙してませーん。俺は、フレンチキスをしてくださいって言っただけ」
「だってさっき『じゃあ』って言ったじゃないの『じゃあ』って! 普通、違う意味だと思うに決まってるでしょ!? なんで同じ意味なのにそんな言い方するのよっ!」
「いやー、なんでフレンチキスって軽いキスだと勘違いしてる奴が多いんだろうなー。フランス料理なんて結構くどい料理が多いし、フランス語っつったら舌を使いまくる言語なのになぁ。やっぱりここは身体で教え込まないとー!」
「んんっ、や、なっ……ん、っ……!」
 とりあえず押し倒し、俺のキスを教えこむ。
 抵抗したいのか、しばらく風澄は俺の肩を叩いたり押しのけようとしたりしていたけれど、そんなことで俺が彼女を解放するはずもない。無駄な抵抗と言いたいところだが、風澄には多少抵抗されたほうが燃えるので、無駄なんて言葉では済まないが。むしろ火に油を注ぐようなものである。
 いつものように首に腕を絡めないのが、彼女のささやかな意思表示。
 だけど、本心では嫌がっていないということを俺は知ってる。
 それとも、そんなことさえできないほど、俺のキスに参っているのかな。
「……っ、はっ……はぁ……」
 やっと解放された彼女は、息をついて、そっぽを向いてしまうけど。
 上気した頬が、もう一度、とねだっているようにも見えて。
「合格ラインは、わかった?」
「……………………ううう」
 わかっていたけれど、あらためてされると恥ずかしい。そんな表情。
「しょうがない、今日からしばらく、キスの練習でもしよう」
「えええっ!?」
 俺の宣告に、またもや風澄は驚くけれど。
 残念ながら、今の君は俺の腕の中。離してなんかやらないよ。
「……どうしたら、許してくれるの?」
「俺が満足できるようなキスができるまでに決まってるだろ?」
「……まっ、満足……!?」
「当然、及第点を取るまで、赦さないからな」
「…………ゆ、赦さないって、なにするの……?」
「そうだなぁ……」
 間を数秒空けて、俺は呟いた。
「俺のでも、舐めてもらおうかな」

 その後、またも数秒の間が開いて。

「い、い、い、いやああああああぁーーーーーーっ!!! 昂貴の変態ーーーっ!!!」
 ……という、風澄の絶叫が響いた。

 * * * * *

 え? 練習の成果は、って?

 ――教師を誰だと思っているのかね、君たちは。
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First Section - Side Story The End.
2005.02.25.Fri.
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